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ある夢を見た

  • 執筆者の写真: 栃原比比奈
    栃原比比奈
  • 9 時間前
  • 読了時間: 2分

あたりはだいぶ暗くなっていた。夏の暑さは湿気を帯びて重苦しかった。今日は良いところへ連れて行ってあげるという男を信じるのがいいのかどうか悩ましいところだった。新聞社で働いているという男は痩せぎすで甲高い笑顔は取ってつけた定食の付け合わせみたいだった。信じるも何も強引にその時は来て、車に案内されるがまま乗ると、ラジオがかかっていた。どこに連れて行かれるかも分からずに車の中から車窓を眺める。車窓からはどんよりと暗い空の下の方がこの世の終わりのような夕焼けの赤に染り情熱的に燃えるのが見えた。しまったと思ったが遅かった。車はどんどんとその燃え盛る赤に向かって走る。雷が遠くで鳴り響き、しばらくすると土砂降りの雨がフロントガラスやボンネットを騒々しく叩き始めた。車は暗い森に吸い込まれるように入っていった。タバコの匂いが鼻についた。口の中の異物感がじっとりとした汗と混じり合って生臭く、ラジオだけが楽しそうに今日の相談者の手紙を読み上げていた。このままここにいるのか、それとも森の中に逃げるのかどちらにしようかと頭の中で考える。この男をここで殺してしまおうかという気持ちもよぎったが、それは面倒臭すぎると思い直した。そこまで思い詰める気力もなかった。薄暗い森の中で誰かの視線を感じた。いつの間にか音もなくなっていた。横たわりながらふと目を開けると、窓の満月が白い。声を押し殺して外に出る。ぬめりとした風が身体を横切った。気づいたら走っていた。喉の奥が熱く焼ける。そんな夢を見た。

 
 

© 2025 Hiina Tochihara

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